当相談室が目指すセラピー;感覚とこころの柔軟性と安心感

 あけましておめでとうございます。令和3年(2021年)が始まりました。

 新年最初のブログは、当相談室の心理療法の方向性というか、目指すものについて、書いてみたいと思います。開業して1年9か月たち、なんとなくそれが見えてきたからです。

 

 ‘心理’療法というからには、達成したいことは、こころを直す・癒す・変える、ということになるのでしょう。たいていの場合、クライエントさんにとって、直したい・癒したい・変えたい、‘こころ’とは、感情・気持ち・気分、です。もちろん、性格や行動や生活習慣、考え方を変えたいと言われる方もいます。しかし心理療法やカウンセリングを希望されるとき、性格、行動や考え方のもとになっている感情や気持ちを変えたいということが多いようです。あるいは逆に、性格や行動の結果として感情が乱れることをなんとかしたい、ということでしょう。

 その感情や気持ちを変えるために、とても大雑把な分け方ですが、心理療法には3種類のアプローチ方法があり、理論や流派、技法によって特徴が変わるように思います。

 

 一つ目は、感情に対しそのまま感情からのアプローチを重視する方法です。‘いまここ’での感情体験やセラピストとの関係性や感情の交流を重視します。心理療法で体験した暖かい感情やセラピストとの関係によって、感情が変化し、世界への信頼や自分への自信、愛着がよみがえってきます。クライエント中心療法や支持的精神療法、私の師の福島哲夫先生が専門とされる加速化体験力動療法(AEPD)、エモーションフォーカストセラピー(EFT)などがそれにあたるでしょう。認知行動療法でも、ホットな認知と言われる感情にアプローチするものは感情重視と言えます。私の知っているなかでは、スキーマ療法がそれにあたりそうです。精神分析やユング派も無意識に感情的に触れていく場合はこのアプローチでしょう。

 このアプローチのセラピストは、とても暖かく優しい印象を受けます。福島哲夫先生がそうでした。一緒にいるだけで、なぜかほっとして泣きたくなるような感じです。セラピー自体が心地よく、次第に自分のこころが癒され成長し、日常生活でもその感覚を広げていくことができます。

 

 二つ目は、思考を変えて感情を変えようとする方法です。感情は変えられないけど、考え方は変えられるという発想です。感情や気分は瞬間的だし無意識的に変化しますが、その前提に思考がある。理性や合理的に変えられる思考を変えて、感情も変えようとします。認知行動療法や論理療法が代表的です。私は、行動療法もこちらのアプローチだと思います。行動を変えて気持ちも変えるというのですが、セラピストもクライエントさんも、問題を合理的にとらえ行動も計画的に考えて行うからです。また解釈をクライエントさんに伝え合理的に無意識をとらえ症状を緩和する方法をとれば精神分析やユング派もこちらになるでしょう。

 このアプローチのセラピストは暖かさのなかにも合理的で論理的な思考の持ち主です。また自己治癒の力や成長の力、スピリチュアリティなどにはあまり頼りません。また具体的な効果を出せるよう研鑽しています。優しいだけでは治療者の意味はない、という感じでしょうか。問題が明確な場合に短期に解消でき、クライエントさんの利益になる方法と言えます。

 

 三つ目は、感覚に敏感になり、その結果感情が変わっていくという方法です。この方法は感情を‘変える’というより、感情に‘振り回されなくなる’あるいは‘影響されなくなる’という感じです。感覚は感情とは別の‘こころ’の機能です。感覚に意識を集中することで、感情の嵐にこころ全体を支配されることがなく、感情から距離をとれるというものです。そうすると、その感情や気持ちに従うこともできるし従わないこともできる、自分の意志やこころ全体で判断し行動できるようになります。認知行動療法のなかでもマインドフルネスを使用する方法やアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)、森田療法などがあたります。私の箱庭療法の師、大住誠先生の瞑想箱庭療法もそうです。またユング派も無意識を身体や絵、箱庭で表現し解釈を重視しない方法はこちらになりそうです。

 この方法をとるセラピストは、感情はほうっておくものと考えていますので、クライエントさんの感情の乱れに対し、寄り添い共感しつつもそこから距離を取ります。そして呼吸を始めとした身体感覚や、目に見えるもの、聞こえるもの、などに意識を集中します。クライエントさんもそのうちその態度や方法を学び、自分の感情に振り回されなくなり人生が楽になり充実していきます。マインドフルネスも森田療法も東洋的な価値観から生まれました。そのため、セラピーは修行的で練習が必要な方法となります。

 

 さて、当相談室の方法ですが、三つ目の方法をとっていることが多いです。合気道セラピーはマインドフルネスや森田療法と似ています。トラウマやストレスを身体的な攻撃に見立て、かわし、立ち向かい、調和することを動きで体験的に学ぶことで嫌なものでなくなっていきます。感情をそのまま感情として扱うのではなく、とりあえず置いておいて、動きや身体感覚、気や調和のイメージに熱中し、楽しく心地よく体験することで、感情も変わっていきます。また身体の感覚や気を出すのイメージに集中することで、弱く不安定な姿勢から安定しゆるがない姿勢に変わります。そうすると、感情も安定することが期待されます。感情が乱れているから感情を落ち着かせるというのではなく、身体を落ち着かせるのです。

 箱庭療法も同様で、作成そのものでの体験が重要となります。そこで、セラピストとしても解釈はほぼせず、作品の印象も見た瞬間に感じたもののみが大切と考えています。

 

 もちろん統合的な方法をとっていますので、クライエントさんの問題や状態、希望によっていくつかの方法をとっています。しかし、どうしても心理療法にはセラピストの個性が出てしまいます。得意不得意もそうです。そうも私の個性は、三つ目の方法のようです。それはマインドフルネスはじめ世界でも多く行われ効果も出ている方法なので、ありがたいというか、その方向で進んでよいのだという信頼もあります。

 

 その感覚を重視する方法では、考えや感情を少なくとも最初のうちは変えようとはしません。ただ距離を取るというのがとても効果的なのです。それは、こころの柔軟性を取り戻すということになります。変えようとするとそれが硬直になります。変えなくても変えてもいい、その判断ができる自由を取り戻す、変わらなくても活き活きと生きるうえでの障害にならない、というのが三つ目の方法のようです。

 

 そしてもう一つは安心感です。これも感情の共感からくるものだけでなく、柔軟になることと感覚を感じ取り信じることからくるようです。自信や自己肯定感という感情も、セラピストが感情的に支えたり考え方を変えるのではなく身体を安定させることで、体感的に身についていきます。

 

 以上のように、1年9か月やってきて、当相談室の心理療法の意義としては、こころの柔軟性と安心感を獲得するというもののように感じています。そのために感覚や気のイメージに意識を集中することが有効のようです。

 弱点としては、修行というかトレーニングが必要ということになりそうです。効果を上げるためにはセラピー中に練習し、セラピーに来ていない1週間~2週間の間にも、練習をお願いしています。

 

 以上が、今の時点での私の方法、当相談室の方向性となります。今後とも、さらにお役に立てるよう、研究、研鑽を積んでいきたいと思います。