発達障害への理解がだんだん進んできていて、最近は合理的配慮が少なくとも理念としてはだいぶ浸透してきたように思います。しかし、一方で、まだ実生活の場で行う具体的な方法については難しかったり混乱したりしていることも多いでしょう。今回は発達障害の方に信頼される方法を、まだまだ未熟ながら私なりの経験と考えてきたこと、つまり「発達障害の内面の構造化理論」から書いてみたいと思います。心理カウンセラーや教員、福祉士、医師、看護師といった支援者はもちろん、家族の方、会社の人事課、友人、等、発達障害に何らかの形で関わるの方もぜひお読みください。
①声のトーン、表情は穏やかに、急に大声をあげない
聴覚の過敏性を持っていたり、急な変化に対応しにくい方が多いです。支援者や家族の方は、びっくりしたり感情が揺さぶられたときも、急にその変化を表出しないようにしましょう。そのため、重心を身体の下にしゆっくり呼吸することを練習して習慣化しましょう。
②興味、関心を柔軟にもつ
発達障害の方は、独特な興味を持ちそれにこだわる方が多いです。その内容は理解しにくい奇妙なものもあるのですが、なるべくその興味、関心について支援者も触れてみてその魅力を知るよう努めましょう。深層心理学では、その興味に無意識的なメッセージや解釈を読み取ろうとすることがありますが、それは不要です。ただ、触れて、こちらも楽しむ。楽しむことができなければ、驚くことが大切です。(以前、日本中の工場の煙突の写真を集めている子とか、アメフラシが大好きな子がいました。これは私は楽しめない。でも、「煙突やアメフラシがこんなに種類あるのか!すげーな!君はよく知ってるねえ!」と驚くことはできました。)
私は、カウンセリングの半分の時間で真面目な話をしたら、半分をクライエントさんの興味について自由に語ってもらう時間にすることがあります。特に子どもの発達障害のクライエントさんの場合よくやります。定型発達の子の場合は遊んだりお絵描きしたりしますが、発達障害の子は自由遊びや感情の表現をする遊びより、興味あることについて語ってもらって、驚いたりほめてもらうことに楽しみを感じるようです。
③自分の立場、スタンスを宣言しておく
発達障害の方は、あいまいさを嫌います。また、これまで叱られることが多く、自分や援助者に不信感を持っている場合もあります。カウンセラーや福祉関係者、治療者は自分がどのような職業でどんな役割をするのか、何ができるのか、ここ(教室や相談室等)で何をするのか、そうするとどんなメリットがあるのか、などをはっきり説明しましょう。また、一方的な叱責や評価など彼ら/彼女らの脅威になることはしないとも伝えましょう。
④指導、説教、助言、問題行動を話題にするときは、最初に宣言しておく
これは大事ですが、あまり注意されていないようです。上記したように発達障害の方は、突然やあいまいさを嫌います。とくに嫌なことが起きるときはそうです。彼ら/彼女らにとって耳が痛い話をするときは、最初に宣言し、今日は(今回は)どんな話をするのか、明確にしておきます。そうしないと、急に怒られ否定されたと感じ、戸惑い、驚き、悲しみ、怒り、から心理が乱れ指導を受け入れることができません。裏切られたと感じることもあります。私は「今日はまず最初にきみにとって耳が痛い話をするよ。でも大事なことだから、少し聞いてね。それが終わって時間があったらアメフラシの話もしようね。」といった表現をしていることが多いですね。そう、指導だけでなくそれがいつ終わるのか、終わったら何が起こるのかまで説明しましょう。よく、叱られてばかりの発達障害の人が指導を受け入れない、難しい話を避ける、という現象が多く聞かれます。しかし、この宣言をしてからだと、割合きちんと聞いてくれ話し合えることが多いです。教育分野だけでなく、発達障害の部下を持つ上司の方も、仕事のミスや態度について話し合う際などは参考にしてみてください。
⑤理論武装しておく
これは発達障害の人をやりこめ論破するためではありません。あいまいさをさけ、生きていくのに必要、あるいは便利な常識を説明するためです。もちろん、説明したうえでその常識を避ける、別の方向で生きていくというのは、尊重されるべきです。しかし、説明がないと、常識とマジョリティの圧力にうろたえてしまい、訳も分からず、怒り悲しみ恨むことになりかねません。常識と戦うにしても敵を明らかにしておきます。
「どうして学校に行かなくちゃいけないか」をテーマにするときは、義務教育の歴史と意義を説明します。恋愛や家族の意義について話し合うときなどは、人類学なんかを参考に説明するとよいかもしれません。それらはよいこととも説明できるし、「きみの苦しみは人類史的な流れからくる。」と、例えば学校教育に興味を持てない人や恋愛下手な人に説明するのもありです。こういう話を聞いて、自閉症スペクトラムの人で嫌がる人は少ないように思います。たとえ自分が人類のなかでマイノリティで共感する人が少ないと知っても、あいまいに圧力がかかってきた状態よりはるかにましと思えるようです。最後に、その中で自分はどうするかも話し合います。これをやると、今までこんなにわかりやすい話をしてくれた人はいない、と信用してくれるようです。
これは、定型発達の人で情緒的というか、人生の意義について悩んでいる人には逆効果となる場合があります。「そういうことが聞きたいんじゃない!」と思われます。河合隼雄先生が恋人が事故で死んだ人の「どうして私の恋人は死んでしまったのでしょう?」という問いに「出血多量です。」という答えは答えにならないというエピソードを紹介されています。人生の意味、自分だけの物語という次元で感情を伴って悩んでいる人には、理論武装は逆効果ですね。しかし、自閉症スペクトラムの人が自分や周囲を理解するには必要な支援です。
また、支援者もわからないことはわからないと言うことが大切です。次に会うときまでに調べておくか、自分もわからないけど世の中そうなっていると説明するか、君が調べてみてもいい、と勧めたりするのがお勧めです。世の中でもあいまいなままのものは、はっきりそう言います。「このことはあいまいなんだよ。」とあいまいでなくはっきり言うというのは矛盾していますが、これも発達障害の人を安心させる一助になります。
とりあえず5つにまとめてみました。まだあるようにも思いますが、具体的な支援策に入る前に、発達障害の方と接し信頼していただくための条件として考察してみました。もともと私が無意識的に発達障害の方に好かれ信頼されたパターンをまとめ、今は意識的にこころがけているものになります。ぜひ参考にしてみてください。